病院のその「先」を看るために
Profile
緒方 真由美(オガタ マユミ)
看護師
東京都葛飾区出身。
看護学校を卒業後、都内の単科病院や二次救急病院に勤務。 途中、3人の子育てをしながらも看護師としてのキャリアは切らさず、主の救命救急、脳外、整外、消化器、内科と幅広い分野での臨床経験を積んでいく。 病院で亡くなっていくがん患者に触れていく中で、病院とは違う終末期医療の形を模索するようになり、「ましろ訪問看護リハビリステーション東川口」(現:ましろ訪問看護ステーション)を設立する。
〈看護師〉を目指した理由
親族に医療者がいるといったことではなかったので、医療業界は自分にとって特に身近な世界ではありませんでした。
そんな私が看護師という仕事を選んだ大きな理由は、「一生働いていきたい」「(経済的に)自立した人間になりたい」という想いが強かったからだと思います。
「自分には専業主婦が合わないな」と漠然と感じていたので、結婚・出産・子育てといったライフステージを迎えた後も働き続けることができる仕事を考えた際、自然と〈看護師〉といった職種が浮かびあがりました。
実際に、3人の子どもの出産・育児をしたのですが、その間もほとんどブランクを設けることなく、仕事と家庭との両立は続けました。相応の大変さもありましたが…(苦笑)。
私自身がそういったキャリア思考・自立思考を持ってこれまで働いてきたので、自分で立ち上げたこのステーションでは、子育てや育児といったプライベートでの事情を抱える方も、無理なく働き続けることができる支援体制・各種制度を設けていきたいと考えました。
子育てと仕事との両立に苦労した病院勤務時代
病院では色々な診療科を経験させてもらえたのですが、一番長かったのは救命救急でした。
いつもアドレナリンが出ているような緊張感のある職場で、毎日が充実していてとてもやり甲斐の持てる仕事ができました。
一方で、病院勤務中に一番大変だったのは、やはり子育てとの両立という点でした…。
共働きで家族からのサポートも期待できなかったので、子どもを保育園・幼稚園に送迎をするのは私の役割でした。
私がどうしても送迎に間に合わない時は病院の別のスタッフさんにお迎えをお願いしたこともありました(苦笑)。
残業も多く、お休みも取りづらい病院だったので、子ども達にはたくさんの迷惑をかけたと思います。
ある時、小児喘息を持っていた子どもが状態が悪化して救急車で搬送されたのですが、子どもの状態が落ち着いたことを確認した足で、また仕事に戻っていったことも覚えています。
そのような働き方が1人の母親として正しかったとは私自身も思っていません。
せめて「ましろ」では、仕事と家庭との無理のない両立ができる働き方・お休みのとり方ができる環境を提供したいと思いました。
病院のその先を看るための訪問看護
病棟時代、私が病院以外での終末期ケアに強く興味を持つキッカケとなった1人の患者さんがいました。
その方は、がん末期で腹水も溜まり、麻薬も効かない状態で大変苦しまれていました。
1時間置きにナースコールが鳴るのですが、私たちには手の施しようがなく…。
そのような状態なのですが、ご家族は全然お見えにならなかったんですね。
詳しいことは今でもわからないのですが、あまりご家族との関係も良くない感じだったのだと思います。
結果的に病院でお亡くなりになったのですが、「とても悲しい最期だな」といった想いが私の中で強く残りました。
それから、「退院後はどのように暮らしているのだろう?」「病院に顔を出さなくなった方はどうされているのだろう?」とより一層考えるようになり、在宅に興味を持つようになっていきました。
それから月日が経ち、病院でのキャリアもひと通りやり切ったという感覚を持てたことや、子育ても一段落したタイミングで、自分の看護師としてのキャリアの集大成として訪問看護に挑戦してみようと考えて「ましろ」を立ち上げました。
訪問看護師として感じる責任とやり甲斐
病院と訪問看護の違いとして、私が最も強く感じたのは「視点の広さ」でした。
病院では、患者さんのみ、場合によってはその方の病気のみに集中することができます。
一方で、訪問看護の場合ですと、その方の現在の病気、これまでの病気、生活、家族、死生観といった、その方の人生そのものと言っても過言ではない、全てに向き合っていく場面が出てきます。
そういった幅広い視点をもちながら、その方にできる最善の看護に考えを巡らせ、時間をかけて接していくことができる、それこそが在宅の最大の魅力ではないでしょうか。
訪問看護で関係性を築いていく中で、いち「看護師」ではなく、ひとりの「人間」として、ご利用者やご家族から頼って頂ける瞬間があります。
そこには強い責任感が生じる反面、強いやり甲斐を感じられますし、「訪問看護師になって良かった」と感じられる、かけがえのない瞬間を得られる仕事だと思います。
管理者交代について
2016年より『ましろ』を開所し、まだまだ看護師としても管理者としても精進をしながら、地域のために走り抜ける気持ちではあったのですが、不本意ながら自身の病には抗う事が出来ず、しばらくの休息をいただくこととなりました。
現在、自身が介護を受ける側に立ち、少しではありますがご利用者の心中を察する事が出来るようになったと日々痛感しております。しかし、この経験も「生涯看護師として働いていくためには必要なものだった」と言えるよう噛み締めながら、先々の現場復帰に向けた前向きな療養生活としていくつもりです。
その間、幸いな事に、私の大事な会社、スタッフ、ご利用者の皆さまを任せられる方に出会えたことには感謝の気持ちでいっぱいです。
どうぞ新しい『ましろ』も宜しくお願い致します。